Y’s blog

届きますように、この言葉。

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その日は雨だった。
雲は、その内街を飲み込んでしまうのではないかと思うほどに重たく、黒々としていた。
雨は、傘を差しているというのに容赦なく私たち街ゆく人々を打ちつけて濡らした。
私の気持ちにぴったりだった。
ばたんと扉を閉め、気持ちを晴らす意味もかねてシャワーをあびる。どうせなら、全て洗い流してどこか遠くへ行ってくれたらいいのに、と思った。

また、だめだった。

ふぅっと、長く息を漏らす。
先程外へと持ち出していたカバンにはずっしりと、選考に出した絵の数々。
自分の描く絵で生計を立てていけたらとは思うものの、現実はそう簡単ではないらしい。

「趣味としてでもやっていけてるだけいいのかなぁ。」
洗面所を出ても食事を取る気にもなれず、ぱらぱらと自分の描いた絵に目を通してそのまま机に投げ出して自分はベッドに飛び込んだ。

こういう日は、何を考えたってプラスにはならないのである。


微かな物音で目が覚めたのは、それから5時間近く過ぎたころだった。まだまだ夜明けには程遠く、しかし一眠りは終えてしまったころ。
リビングで何か音がする。

私、鍵閉めなかったのかな。
いくらなんでも、そんなミスは。

女一人暮らし。
なんだかんだもう5年目だ。
用心に用心を重ねてきたつもりではいたけれど、まさか?

近くにあったのはチープな突っ張り棒くらい。
ないよりましかとおそるおそる部屋を覗いて、息を飲んだ。

そこにいたのはカラフルな衣装をまとったキャラクターチックなウサギだ。
「え?」
これは、夢?
「夢か。」
思わず呟くと、ウサギが振り向いた。目がしっかりとこちらの姿を捉えている。それも、ちょと恨みがましそうな目だ。
「夢って何さ。アンタが作ったんだろ。ボクを。」
「私が、つくった?」
私が?そんな恐ろしく非現実なことを言われて、そうですなんて言える人がいるのだろうか。
ウサギってそんな簡単に作れるものか?
オシャレウサギがわざとらしくため息をついた。
「もうほんっとに、ボクに見覚えないワケ?ないとは言わせないからね?」
私は否定も肯定もできずに黙りこくった。
見覚えなら、ある。
あるも何も、このウサギは、
「私が、描いた」
やっと声になったのはもはや会話を成立させるには少し言葉足らずになった。
「どうして……」
立ち尽くしたままの私の足元に、ウサギが歩み寄ってくる。ウサギの癖に履いている靴は私よりもずっとお洒落なシックな黒いブーツだった。カツンカツンと深夜のリビングに小さな足音が響く。


「そりゃ、ボクがアンタの救世主だからだよ。」

 

私は複雑な表情で先の見えない展開を思いやった。

 

 

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